NPO法人さくらんぼ理事長の伊藤保子さんの案内で、2017年1月20日、横浜市瀬谷区の三ツ境にある保育園や子育てひろばなどの視察会を実施しました。文京区内から保育士ら5人が参加しました。
さくらんぼは地域の人が運営しているNPO法人で、小規模保育園など6園、地域子育て支援拠点、親と子のつどいのひろばや学童保育など5カ所の施設の運営などを手がけています。
活動は1997年、横浜市から補助金を得て運営する横浜保育室を開設したところから始まりました。もともと、働く人自身が出資して運営にかかわるワーカーズコレクティブで仕出し弁当の仕事をしていた仲間8人が発足メンバー。8人の出資と借金で0~2歳児20人を預かる「使い勝手のよい、みんなが使える保育園」をめざしたそうです。
「素人感覚」でおかしいと思うことを工夫していったとのこと。たとえば、当時一律6万円近かった保育料について、「これではパートの人は利用できない」と、独自に最低2万円からの9段階の料金表をつくり、パートの人も使いやすくしました。当時保育園に通う親は園で使う布団までも持ち運びしていたものですが、「なんで忙しい親がこんな大荷物なの?」と、持ち帰りをなくし、「なんで保育園児は幼稚園に通えないの?」と、保育園から幼稚園への送迎を始めるなど、地域のニーズをきめ細かくすくいあげて活動してきました。「なぜ2歳までしか通えないの?」「小学校にあがっても通えないの?」といった要望にこたえていくうちに、現在のように幅広い事業を手掛けるようになったそうです。
最初に開いた0歳~2歳児の「保育室ネスト」は、2002年に三ツ境駅徒歩2分の好立地に移転し、3歳児以上児も受け入れる60人定員の保育園になりました。元ゲームセンターだったところで、目の前に広い公園があり、仲間内で「あそこは保育園にするべきよね」と念じていたところ、空いたので、「無理くりお金を集めて借りた」そうです。
横浜保育室は市の補助金が出ていますが、カテゴリーとしては認可外です。また、3歳以上児には補助金が出ないため、園全体としては認可外保育園となります。「なぜ認可園にしないのですか」との問いに、伊藤さんは「認可にすると、本当のニーズがすくえなくなる」と言います。たとえば、1月の出産など、時期的に認可保育園に入れないなどで困っている人を受け入れられます。母親が育てられない赤ちゃんを、生後14日で受け入れたこともあるそうです。胃ろうで痰の吸引が必要な重度身体障害児を受け入れたこともあるそうです。「そういう経験を通して、保育士が育つのです。人の生死にかかわる仕事であること、保育は社会で必要な事業だということを学び、それが自信につながっていきます」
この保育園では、「ただ座っているだけ」の80代のおばあちゃんもボランティアで来ているし、調理や清掃などで知的障害のある方も働いています。
ただ、人数が多い園だと、1人1人に向かい合う保育をする余裕がないときもあります。そこで、小さな保育園をやろうと、保育室ネストのわきのマンションの隣り合った2室を借りて、定員12人の保育園を開設しました。家庭的な雰囲気で、子どもたちは大家族の一員のような感じで過ごしていました。
学童保育室はそこから離れた場所にありますが、180㎡の広さに50人の子どもを預かっています。20時まで開いており、必要な子には夕食も出すそうです。近所には法人で借りている「泥んこ広場」があります。保育園や学童の子どもたちが、ここで泥んこ遊びをするそうです。
法人事務所がある商店街の中には、つどいの広場があります。みんながつどう場所と情報提供、相談、人材育成を手がけています。帰属感を醸成するために、会員制にし、困ったら「助けて」「おいでよ」と言えるような「疑似コミュニティー」をつくっています。預け合いもできます。昔あった、ちょっと近所の人に預けて買い物に行く、という感覚だそうです。今年度からは、ひろばのご近所に横浜市の委託を受けて児童家庭支援センターも始めました。困っている親子を支える活動をしています。
「子育てはバラ色ではなく、真っ黒になることだってある。楽しいことだけじゃない。そういうとき、あの一言で頑張れた、あそこが岐路だった、という経験をたいていの親が持っている。なんとか、そういう時期にある親子の心に響かせたい」と伊藤さん。「子どもはきっちり養育したら、生きていく力を持っている。そこを守ってあげないと」
地域子育て支援拠点「にこてらす」も、瀬谷区の委託で運営している子育てひろばです。小さなお庭もあります。ここに来た人は色分けされた名札を首からぶら下げます。色によって青は「スタッフと話したい」、水色は「静かに過ごしたい」、ピンクは「ともだち募集中!」など、その日のその人の思いの一部を表現しています。スタッフは、「話したい」をぶら下げている人に話しかけ、「静かに過ごしたい」人はそっとしておきます。
発達障害や知的障害の子、外国人の親子も来ます。しかし、スタッフと利用者は教える、教えられる、といった関係性ではありません。「私たちは環境だけをととのえ、利用者からヒントをもらってつくっていっています」。ベトナム人同士、中国人同士など、自主グループもできました。食材の寄付があったときの仕分けは、若年出産したママが率先してやってくれます。「平場の関係から次へと発展していきます。地域性と当事者性を壊さない。そうでないと、『場』でなくなる。それは行政にはできないことで、民間だからこそできる。専門性は持っているが、普段は普通のおばちゃんでいい」と伊藤さんは話していました。